・・・精神のラッシュにまぎれて、いかがわしい種々の操作が、今日では法律上の名目も失い、行政上の格式も失いながら、なお最下等動物のように執拗に、ぬけめない陋劣さで活躍していることも、人々が直感しているところである。 日本にとって、本当にすがすが・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・しかも、一方に、急テンポな近代資本主義化が進んでいて封建的にきりはなされ、格式だおれな心理になりがちな俳優たちの生活が、欧米式自由競争、契約の方法にきりかえられようとしている。そういう社会的な波瀾に対して、俳優の生活は、どんな一致した結集力・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・ 日本では明治維新以来次第に銀行資本と産業資本の結合した独占資本の形は発達したが、生産の格式はおくれた半封建の中小企業を基礎とし、軽工業を基礎とし、植民地賃銀といわれる低賃銀で男女の勤労者を働かして来た。土地の関係も徳川時代と変りない地・・・ 宮本百合子 「三つの民主主義」
・・・お嬢さん、と云われることのなかにおのずから重苦しく感じさせられる境遇の格式ばった窮屈さや、どこかでその力に従わせられている自分への反撥として、より簡素な娘という云いかたへの趣向があるのだと思われる。実際の条件がそれでどう変化しているかは兎も・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・とくに、総領の息子、あるいは家督をとる一人の娘というような場合、これらの誕生の不幸な偶然にめぐり合った人々は、今もって家のために、親を養い、その満足のために、結婚がとりきめられ、そこでは家の格式だの村々での習慣だの親類の絆だのというものが、・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・三右衛門が重手を負いながら、癖者を中の口まで追って出たのは、「平生の心得方宜に附、格式相当の葬儀可取行」と云うのである。三右衛門の創を受けた現場にあった、癖者の刀は、役人の手で元の持主五瀬某に見せられた。 二十八日に三右衛門の遺骸は、山・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ところがいよいよ子爵夫人の格式をお授けになるという間際、まだ乳房にすがってる赤子を「きょうよりは手放して以後親子の縁はなきものにせい」という厳敷お掛合があって涙ながらにお請をなさってからは今の通り、やん事なき方々と居並ぶ御身分とおなりなさっ・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫