・・・ゴーゴリが「検察官」に描き出している市長夫人と、その娘とは、その間の隠微なものに何と鋭い針をさしているだろう。女としての咲きかかった花の美しさ、自覚の底に揺れ揺れている娘の感覚と、女としての夕やけの美しさ、見事さ、愁いと知慧のまじりあった動・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・緑郎はゴーゴリの「検察官」を組曲につくるプランをたて、しきりに思案中です。私はきのう、おとといでシャパロフ[自注12]をよみかえしたのですが、ゴーリキイより三つ年下のこのひとの経験はいろいろ比べて面白い。なかに、シベリアにはチェレムーシャと・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・むかし築地小劇場がたくみな模倣でゴーゴリの検察官を上演した。あの劇中でも金のないフレスタコフのあなぐら部屋へ靴の裏みたいなあぶり肉をそれでも給仕が運んで来たじゃあないか。あの通りだった。一杯十カペイキの茶でも呼鈴。―― 朝八時と十時の間・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ ○ 検察官や夜の宿の時も強く感じたのだが、私共は、俳優諸君が劇中の人物として、何かしながら気軽に口笛を吹いたり、一寸巧者にピアノに触ろうとしたり、鼻歌でも唱おうとする時、何故とも知らず居心地わるい程、跋のわ・・・ 宮本百合子 「「三人姉妹」のマーシャ」
・・・一つは「検察官」とは正反対の性質をもった作品の一列として桜の園は翻訳ではほとんど生命を失うものだ。桜の園の髄を貫いているのは、現在のロシアにおいては過去の社会現象に属する地主と町人との地位交換問題ではない。ある時代のロシアの魂、その魂は、ロ・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・ゴーゴリの「検察官」と「死せる魂」その他の意義はどこにあったろう。ガルシンの「赤い花」が西欧の読者の胸をうったのは、そのシンボリズムが何を語っていたからであったろう。 公然と条理をもって、しかも人間的機智と明察をもって、どこまでもユーモ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ ソヴェトの劇団を揺すぶりかえした有名なゴーゴリの「検察官」の全然新しい演出。失敗に終った「知慧の悲しみ」の同じような試み。ただ物ずきでメイエルホリドはそれ等をやったのではなかった。十九世紀の「検察官」の記念碑的内容を、ソヴェトの音で、・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・僕は弁護人諸君はただ単に弁護人だけにとどまらず、本当に日本の民主主義をまもり、憲法を擁護する人民のえらばれた検察官としてあの被告たちの真相をてってい的に究明してそして自分の前に謝罪せしめるように、どうかわれわれに御協力願いたい。」 被告・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
出典:青空文庫