・・・のフランドンの豚は、どさりと上から落ちて来た一かたまりのたべ物から、(大学生諸君、意志を鞏固にもち給たべ物の中から、一寸細長い白いもので、さきにみじかい毛を植えた、ごく率直に云うならば、ラクダ印の歯磨楊子、それを見たのだ。どうもいやな説教で・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・その荒物屋というのは、ばけもの歯みがきや、ばけもの楊子や、手拭やずぼん、前掛などまで、すべてばけもの用具一式を売っているのでした。 フクジロがよちよちはいって行きますと、荒物屋のおかみさんは、怖がって逃げようとしました。おかみさんだって・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・謂わばまあ埃と毛髪のこね物なのだが、そこへ、二本妻楊子がさしてある。 蕨を出て程なく婆さんは、私に訊いた。「大宮はまだでしょうか」「この次浦和でしょう? 次が与野、大宮です。――大きい停車場だからすぐわかりますよ」「どうも有・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・ 一太は、楊枝の先に一粒ずつ黒豆を突さし、沁み沁み美味さ嬉しさを味いつつ食べ始める。傍で、じろじろ息子を見守りながら、ツメオも茶をよばれた。 これは雨が何しろ樋をはずれてバシャバシャ落ちる程の降りの日のことだが、それ程でなく、天気が・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・「――でも、あなた自分の歯楊子をひとに貸す?」 メーラはインガの質問をはぐらかした。「ああ、私丁度歯楊子をなくしたところだった。どうもありがとう。思い出さしてくれて!」 インガは考えるのであった。自分は工場管理者という自分の・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・私は、近ごろ熾になりたての熱心さでいい加減雑誌の上を這い廻らせてから、楊子の先でちょいと、胴のところに触って見た。するとまあ虫奴の驚きようといったら! 彼――彼女――は突つかれたはずみに、ぴんとどこかで音をさせ一二分体全体で飛び上って落ちる・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・また、愛嬢楊子さんの勉強方針に関して、さりげなく示されている順序も、尾崎氏が、自身の思想構成の正当さについてゆるぎない信念をもっていられたことを示している。 尾崎氏は、或る時代と条件とのもとで、一個の人間が生き得る最も正直な、誇りたかい・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・ 犬塚は楊枝を使いながら木村に、「まあ、少しゆっくりし給え」と云った。 起ち掛かっていた木村は、また腰を据えて、茶碗に茶を一杯注いだ。 二人と一しょに居残った山田は、頻りに知識欲に責められるという様子で、こんな問を出した。「・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・ 石田は先ず楊枝を使う。漱をする。湯で顔を洗う。石鹸は七十銭位の舶来品を使っている。何故そんな贅沢をするかと人が問うと、石鹸は石鹸でなくてはいけない、贋物を使う位なら使わないと云っている。五分刈頭を洗う。それから裸になって体じゅうを丁寧・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫