・・・これ等の統一的な芸術にあっては、はじめより、大衆に共通する趣味、興味、感情、思想等を標準とし、普遍性を指標とするを特色とする。勿論その中には、郷土的色彩のあるものもあるけれど、要するにそれ等の認識、発見に目的があるのでなくして、一般の娯楽に・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・しかしこの小説の大阪弁は紋切型の大阪弁ではないまでも、何か標準型の大阪弁というような気がする。普通大阪の人たちが使っている大阪弁はもっと形のくずれたものであって、このような標準型の大阪弁で喋っている人は殆んどいない。これは美化され、理想化さ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・一時は将棋盤の八十一の桝も坂田には狭すぎる、といわれるほど天衣無縫の棋力を喧伝されていた坂田も、現在の棋界の標準では、六段か七段ぐらいの棋力しかなく、天才的棋師として後世に記憶される人とも思えない。わずかに「銀が泣いてる坂田は生きてる」とい・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・を求めねばならぬ所以であり、他人の天命を完うするとともに、自己の天命を完うするという共存共栄の道が実践的には矛盾と撞著を生ずる故、その場合の行為選択の標準がなくてはならない。他人の家の火災と、自分の入学試験の受験とがぶつかったとき、いずれを・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・而してこの私を標準にして世間を見渡すと、世間の人生観を論ずる人々も、皆私と似たり寄ったりの辺にいるのではないかと猜せられる。もしそうなら、世を挙げて懺悔の時代なのかも知れぬ。虚偽を去り矯飾を忘れて、痛切に自家の現状を見よ、見て而してこれを真・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・それだけが標準なのだわ。もう冗談も何も無く、つめたく落ちついてそう信じ切ってしまっているのだから、おそろしいわ。ぞっとする事があるわ。どんなにお上品に取りすましていたって、心の中では、やっぱりそうなのだから、いやになるわ。もしあたしにいま一・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・ キュリー夫人などが居るではないかという抗議に対しては、「そういう立派な除外例はまだ外にもあろうが、それかといって性的に自ずから定まっている標準は動かされない。」 モスコフスキーは四十年前の婦人と今の婦人との著しい相違を考えると・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
歌の口調がいいとか悪いとかいう事の標準が普遍的に定め得られるものかどうか、これは六かしい問題である。この標準は時により人により随分まちまちであってその中から何等かの方則といったようなものを抽き出すのは容易な事とは思われない・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・したがって恒産のない以上科学者でも哲学者でも政府の保護か個人の保護がなければまあ昔の禅僧ぐらいの生活を標準として暮さなければならないはずである。直接世間を相手にする芸術家に至ってはもしその述作なり製作がどこか社会の一部に反響を起して、その反・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・自白すれば余はまだこの標準的述作を読んでいないのである。それにもかかわらず、先生が十年の歳月と、十年の精力と、同じく十年の忍耐を傾け尽して、悉くこれをこの一書の中に注ぎ込んだ過去の苦心談は、先生の愛弟子山県五十雄君から精しく聞いて知っている・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
出典:青空文庫