・・・その心持も厭だし、春は我々こそと云うように、派手な色彩をまとった婦人達が、吹き捲る埃風に髪を乱し、白粉を汚し、支離滅裂な足許で街頭を横切る姿を見るのも楽でないことだ。京都など、そのように不作法な風が吹かないしほこりは立たないし――高台寺あた・・・ 宮本百合子 「塵埃、空、花」
・・・ 荷馬車が二台ヨードをとる海藻をのせて横切る。 男の児が父親に手をひかれて来る 男の児の小さい脚でゴム長靴がゴボゴボと鳴った。〔欄外に〕 ウインネッケが二十七日地球に最も近づく。前日の百五十三万里に比して三万里近くなって・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・変な、構わない恰好をして行く途中踏切を横切る。よく東京から来た汽車に出会い、畑の中に佇み百姓娘のように通過する都会的窓々を見上げた。知った人が一瞬の間に、おや! と自分を認めたかもしれないと可笑しがった。今年は、郊外へ引越したし、多分何処へ・・・ 宮本百合子 「夏」
・・・旅行記『新しきシベリアを横切る』内外社。一九三二年二月。宮本顕治と結婚。本郷動坂に家をもった。〔四〕月七日。文化団体に対する弾圧。私は駒込署に検挙され、宮本顕治は非合法生活に入った。九月。日本プロレタリア文化連盟・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 決して歩調をはやめずまたサドーヤを横切ると、その街燈柱と菩提樹のところ、きっちりさっき日本女が一度馬車から下りた地点で車を止めた。あっち向のまま、 ――家へ帰んなさい。 日本女はすぐに御者の云うことを理解しなかった。 ――・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
出典:青空文庫