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・・・土下座せんばかりの母親の挨拶などに対しても、父は監督に対すると同時に厳格な態度を見せて、やおら靴を脱ぎ捨てると、自分の設計で建て上げた座敷にとおって、洋服のままきちんと囲炉裡の横座にすわった。そして眼鏡をはずす間もなく、両手を顔にあてて、下・・・
有島武郎
「親子」
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・・・ 紺のあつしをセルの前垂れで合せて、樫の角火鉢の横座に坐った男が眉をしかめながらこう怒鳴った。人間の顔――殊にどこか自分より上手な人間の顔を見ると彼れの心はすぐ不貞腐れるのだった。刃に歯向う獣のように捨鉢になって彼れはのさのさと図抜けて・・・
有島武郎
「カインの末裔」