・・・ たとえばある工学者がある構造物を設計したのがその設計に若干の欠陥があってそれが倒壊し、そのために人がおおぜい死傷したとする。そうした場合に、その設計者が引責辞職してしまうかないし切腹して死んでしまえば、それで責めをふさいだというのはど・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・もっともそういう無理解は、何も新聞記者だけとは限らず、一般世間の相当教養ある人士の間にも共通であって、その根源は結局日本における科学的普通教育に非常な欠陥のあることを物語るものであって、何も新聞記者諸氏のみの罪ではないのである。しかし、せめ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・であるから、その思ったことがどれほど他愛のないことであっても、またその考えがどんなに間違った考えであっても、ただ本当にそう思ったことをその通り忠実に書いてありさえすればその随筆の随筆としての真実性には欠陥はないはずである。それで、間違ったこ・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・これは人々の心がけによることであるが、しかし大体において学校の普通教育ないし中等教育の方法に重大な欠陥があるためであろうと想像される。これに限ったことではないが、いわゆる理科教育が妙な型にはいって分りやすいことをわざわざ分りにくく、面白いこ・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・D君は現在教育制度の欠陥を論じて、日本人は小学から大学までただ満員電車にぶら下がる術を教わるばかりだと云った。E君は、国民の哲学的宗教的背景が欠けている事を痛論した。 X君とZ君だけは自分の大浴場説に賛成した。しかし浴場に附属した礼拝堂・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・ある人はこれを社会経済状態の欠陥のせいだと信じ、またある人は唯物論的思想の流行による国民精神の廃頽のせいだと思い込む。しかしこれらの動揺の真因は必ずしもそう手近な簡単なものではないかもしれないと思われる。 いろいろ考えられる原因の中での・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・ 請負師や大工に責めを帰していいのか、在来の建築方式そのものに欠陥があるのかどうかわからない。考えてみると請負師や大工に言ったくらいでねずみが防ぎきれるものならば大概の家にはねずみがいないはずである。しかし実際ねずみのいない家はまれであ・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・富の分配の不平等に社会の欠陥を見て、生産機関の公有を主張した、社会主義が何が恐い? 世界のどこにでもある。しかるに狭量神経質の政府は、ひどく気にさえ出して、ことに社会主義者が日露戦争に非戦論を唱うるとにわかに圧迫を強くし、足尾騒動から赤旗事・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・元来私は、磁石の方角を直覚する感官機能に、何かの著るしい欠陥をもった人間である。そのため道のおぼえが悪く、少し慣れない土地へ行くと、すぐ迷児になってしまった。その上私には、道を歩きながら瞑想に耽る癖があった。途中で知人に挨拶されても、少しも・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 女の子は、愛嬌がないときらわれる、意志がつよいと敬遠される、と、受け身にばかり育てられた日本の若い女性が、今日、どのような姿で、この古い日本の躾の欠陥を社会に示しているでしょうか。 世界の人が、日本の謎の一つとする「日本人の笑・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
出典:青空文庫