・・・動物なり、かつなんじはわれらと共になすべき業を有すと言い放つを願わざりしにはあらねど、されど二郎ほどの男、わが言葉によりて感憤するほどの不覚をなさじ、かれ必ずかれの志あり、海を懼れず陸を懼れずなさんと欲するところをなすはこの若者なるをわれ知・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・「オルムスの大会で王侯の威武に屈しなかったルーテルの胆は喰いたく思わない、彼が十九歳の時学友アレキシスの雷死を眼前に視て死そのものの秘義に驚いたその心こそ僕の欲するところであります。「勝手に驚けと言われました綿貫君は。勝手に驚けとは・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 性の欲求、恋愛は人間の本性上、ことに男子にとっては、自由を欲するものであって、それはまた生活精力上、審美上、優生学上の機微とからまり、自然の不思議な意志が織りこまれているものである。この天然と生命との機微を無視するキリスト教的、人道主・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・つまり女を知るの機会は、もし欲するなら、壮年期に幾らでもあるからである。 もっとも二十五歳まで女を知らなければ、知りたいための悩みを持つであろう。しかしその悩みは青春そのものの本質なのだ。それが青春の独特な歓楽をつくり出すところの種箱な・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 十日、東京に帰らんと欲すること急なり。されど船にて直航せんには嚢中足らずして興薄く、陸にて行かば苦み多からんが興はあるべし。嚢中不足は同じ事なれど、仙台にはその人無くば已まむ在らば我が金を得べき理ある筋あり、かつはいささかにても見聞を・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・信長に至っては自家集権を欲するに際して、納屋衆の崛強を悪み、之を殺して梟首し、以て人民を恐怖せしめざるを得無かったほどであった。いや、其様な後の事を説いて納屋衆の堺に於て如何様の者であったかを云うまでも無く、此物語の時の一昨年延徳三年の事で・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・孔子も、五十にして天命を知り、六十にして耳したがい、七十にして心の欲するところにしたがい矩をこえず、といった。老いるにしたがって、ますます識高く、徳がすすんだのである。 このように非凡の健康と精力とを有して、その寿命を人格の琢磨と事業の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・、二十年を経て漸く大悟徹底し、爾後四十年間、衆生を化度した、釈尊も八十歳までの長い間在世されたればこそ、仏日爾く広大に輝き渡るのであろう、孔子も五十にして天命を知り、六十にして耳順がい、七十にして心の欲する所に従って矩を踰えずと言った、老る・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・世の敗者たるもの、この優しい慰めに接して、泣かじと欲するも得ざる也。いい事だか、悪い事だか、私にもわからない。 観衆たるの資格。第一に無邪気でなければいけない。荒唐無稽を信じなければいけない。大河内伝次郎は、必ず試合に勝たなければいけな・・・ 太宰治 「弱者の糧」
・・・もう少し心とからだの安息を与えて、思いのままに彼の欲する仕事に没頭させた方が、かえって本当にこの稀有な偉人を尊重する所以でもあり、同時に世界人類の真の利益を図る所以にもなりはしまいか。これも考えものである。 今度のノーベル・プライズのた・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫