・・・殊に瞽女を知ってからというもの彼は彼の感ずる程度に於て歓楽に酔うて居た。二十年の歓楽から急転し彼は備さに其哀愁を味わねばならなくなった。一大惨劇は相尋いで起った。六 夜毎に月の出は遅くなった。太十は精神の疲労から其夜うとうと・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・抑も苦楽相半するは人生の常にして、茲に苦労あれば又随て歓楽あり、苦楽平均して能く勉め能く楽しみ、以て人生を成すの道理は記者も許す所ならん。然らば則ち夫婦家に居るは其苦楽を共にするの契約なるが故に、一家貧にして衣食住も不如意なれば固より歌舞伎・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・レーク・ジョージでは此処一点が、あらゆる華奢と歓楽との焦点になって居るのでございます。 毎晩九時過ぎると、まだ夜と昼との影を投じ合った鳩羽色の湖面を滑って、或時は有頂天な、或時は優婉な舞踏曲が、漣の畳句を伴れて聞え始めます。すると先刻ま・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 笑いの影には悲しみが息づき歓楽の背後にすすり泣く悲しみがある。 悲しみなしの喜びは世の中に必(してない。 いかなる詩聖の言葉のかげにも又いかばかり偉大な音楽家の韻律のかげにもたとえ表面は舞い狂う――笑いさざめく華かさがあっても・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・自分の姿とを認めるきりで、とても過ぎ去った歓楽を追慕するような心持ちなどにはなれません。もう少し年を取ったらどうなるかわかりませんが、今のところでは回顧するたびごとにただ後悔に心臓を噛まれるばかりです。 しかし私は青春と名のつく時期を低・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫