・・・――ところで、とぼけきった興は尽きず、神巫の鈴から思いついて、古びた玩弄品屋の店で、ありあわせたこの雀を買ったのがはじまりで、笛吹はかつて、麻布辺の大資産家で、郷土民俗の趣味と、研究と、地鎮祭をかねて、飛騨、三河、信濃の国々の谷谷谷深く相交・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・これに関する自分の知識はただ、磯清氏著「民俗怪異篇」によって得ただけであって、特に自分で調べたわけではないが、近ごろ偶然この書物の記事を読んだ時に、考えついた一つの仮説がある。それは、この怪異はセントエルモの火、あるいはこれに類似の空中放電・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・製作のミリウ〔milieu 環境〕がちがうとは云え、培養された風土民俗が違うとは云ってもあまりに著しい相違である。同じような原始的芸術から進化する途中に偶然分れた二つ道が幾千年の後に再びここに相会してお互いに驚き合っているような気もする。ソ・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・そして現代の事相に古い民俗的の背景を与える。 この神社の祭礼の儀式が珍しいものであった。子供の時分に一二度見ただけだから、もう大部分は忘れてしまったが、夢のような記憶の中を捜すとこんな事が出て来る。 やはり農家の暇な時季を選んだもの・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・それはいずれにしても、今のうちにこれらの滅び行く物売りの声を音譜にとるなり蓄音機のレコードにとるなりなんらかの方法で記録し保存しておいて百年後の民俗学者や好事家に聞かせてやるのは、天然物や史跡などの保存と同様にかなり有意義な仕事ではないかと・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・それらは、そういう寺社を教養の中心としていた民衆の心情を、最も直接に反映したものとして取り扱ってよいであろう。民俗学者が問題としているような民間の説話で、ただこの時代の物語にのみ姿を見せているもののあることを考えると、この時代の物語の民衆性・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫