・・・絶望し、分別を失ったドイツの民衆は、それがなんであろうと目前に希望をあたえ、気休めをあたえるものにすがりつき、いかがわしい予言者だの、小政党だのが続々頭をもたげた。 ヒトラーのナチスも、はじめはまったくその一としてあらわれた。当時のドイ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 恭二が良吉より先に帰って来ると、お君は何か涙声でボツボツと只気休めに、養母に頭を押えられて居る力弱い夫に訴えて居た。 気の置ける夕飯をすますとじきに疲れて居るからと云って栄蔵は床に入ってしまった。 お君は父親を起すまいと気を配・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・作者としてのゴーゴリは、わが心のよりすがるべき小さい気休めの小枝にもどんづまりまで皮肉と諷刺との鎌を当てていて、彼の涙と笑いの果いは、一種の虚無感が連っているようでさえある。 イリフ、ペトロフの「黄金の仔牛」の世界は、そういう意味では、・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ 病気しているひとが、ひとも病気になったときいて、気の毒がりながら何となし自分だけではないという気休めを感じることがある。その心理は、無理ないことかもしれないけれども、さらに心の高い人だったらおそらく、それをきいて小さい気休めを感じるよ・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・と思っていると、十四五年ぶりの植疱瘡では無理もない、鹿児島の市を歩いている頃からそろそろ妙になって来た。Y、繃帯の上からたたきながら「大丈夫、何でもない、ね、ね」と気休めを求めていたが、昨日は気分悪く、目が醒めたら発熱していた。K氏からの紹・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 田地の事、作物の事、小作男の不平やら、思わしい収獲を得ない田畑の物などの話は聞いても、それは只、話す人の気休めのために話すので私に相談する事はない、私の聞いても喜ばない事は聞かずに居られる、幸福な事だ。 一俵まけてくれ、と菊太が願・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・進歩――それは気休めだよ。人間が求めているのは忘却、慰安であって、知識ではない」 この時分、ゴーリキイは彼を「俺のレクセイ・マクシモヴィッチ、俺の可愛い錐、新しい人間!」と呼んで親密にするモローゾフ紡績工場の老職工ルブツォフを知っていた・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・彼を生かし、きっと幸福にしてやれる確信も自分にもたないのに、死ななかったら仕合にしてあげたのという出鱈目な気休めは云えない。ああ云う破綻がさけようとしても避けられない運命的な災難であると仮定しても私が参るのは、それを素直に、わあっと泣いて仕・・・ 宮本百合子 「文字のある紙片」
・・・強権を発動して供出をさせると脅かしたり、輸入米が出来ると気休めをいったりするけれども、つまるところは、米の価格吊上げという、一層人民生活を破壊する方法しか実現していない。人民の生活を破壊した政府は、どれだけの実力を以て、今日その再建をすると・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫