・・・』と首を出したのは江藤という画家である、時田よりは四つ五つ年下の、これもどこか変物らしい顔つき、語調と体度とが時田よりも快活らしいばかり、共に青山御家人の息子で小供の時から親の代からの朋輩同士である。 時田は朱筆を投げやって仰向けになり・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・「内務省に出る事に決定りました、江藤さんのお世話で」「フンそうか、それで目出度いというのか。然し江藤さんとは全体誰の事じゃ」「江藤侯のことで……直文さんのことで」「ウーン三輔のことか、そうか、三輔なら三輔と早く言えば可えに。・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 少女は此二階家の前に来ると暫時く佇止って居たが、窓を見上げて「江藤さん」と小声で呼んだ、窓は少し開ていて、薄赤い光が煤に黄んだ障子に映じている。「江藤さん、」と返事が無いから、少女は今一度、やはり小声で呼んだ。 障子がすっと開・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・木内宗五も吉田松陰も雲井竜雄も、江藤新平も赤井景韶も富松正安も、死刑となった。刑死の人には、実に盗賊あり、殺人あり、放火あり、乱臣・賊子あると同時に、賢哲あり、忠臣あり、学者あり、詩人あり、愛国者・改革者もあるのである。これは、ただ目下のわ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・も死刑となった、と同時に一面にはソクラテスもブルノーも死刑となった、ペロプスカヤもオシンスキーも死刑となった、王子比干や商鞅も韓非も高青邱も呉子胥も文天祥も死刑となった、木内宗五も吉田松蔭も雲井龍雄も江藤新平も赤井景韶も富松正安も死刑となっ・・・ 幸徳秋水 「死生」
出典:青空文庫