・・・この船出は、地理上の旅行であるばかりでなく、フランス中産階級の生活の中でも特別な生い立ちをもったジイドにとっては全く幼年時代からの訣別であった。アフリカという未知の地方への出発は、ジイドにとってはとりも直さず未知な生活、未知な自己の個性、未・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 現代ヒューマニズムは日本のインテリゲンチアがマルクス主義に絶望し、それと訣別したところにその出発があるのではなく、マルクス主義をも含めて一切の人間の精神の活動や行為、人間的独立が、虐げられ踏みにじられていたところに、そのノッピキならぬ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・祖母との訣別は思いのほか強く私を打った。祖母でさえそうだ。まして、自覚し思い込んで愛している幾人かの愛する者との別れが、不意に来たら、自分はどうするだろう。この恐怖は、祖母の葬送前後著しく私を悩した。それを考えると、自分の健康なのが却って重・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・という、訣別の辞を与えなければならなかったのである。六 まったく。悲しき親友よ!「私はきっと今に何か捕える。どんな小さいものでもお互に喜ぶことの出来るものを見つける。どうぞ待っておくれ」 彼女は、否でも応でも、彼・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ったカチューシャが、その人々の感化から自分の過去の不幸の意味を理解し、人間としてそこからぬけ出してゆく途がわかってみれば、ネフリュードフの自己満足のための犠牲はいらないこととわかって、ネフリュードフと訣別する。その舞台で山口淑子のカチューシ・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・そのオリガとの訣別は、ゴーリキイとの性格のちがい人生に対する態度のちがいから起ったのであるが、自身の人間及び作家としての発展の自覚と、それに不適合な女との関係をゴーリキイはゲーテなどとも著しく違う態度で見ている。ゲーテは女との結合、離別に際・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・アンリイがデロアの息子であると知って、心から愛するエエメ教姉の話をしたことを愧じる心持、アンリイとの訣別、デロアのところを逃げて来るところ、ここには貧しくよるべなくお針女はしているが、決して卑屈でない女の真情が溢れたぎっているのである。・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫