・・・これと並行してまたエンコウ(河童と相撲を取ってのされたという話もある。上記のシバテンはまた夜釣りの人の魚籠の中味を盗むこともあるので、とにかく天使とはだいぶ格式が違うが、しかし山野の間に人間の形をした非人間がいて、それが人間に相撲をいどむと・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・や「河童」の類となると物理学や気象学の範囲からはだいぶ遠ざかるようである。しかし「天狗様のおはやし」などというものはやはり前記の音響異常伝播の一例であるかもしれない。 天狗和尚とジュースの神の鷲との親族関係は前に述べたが、河童や・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・「歯車」「西方の人」「河童」等の作品によく現れて居る。且つ彼はそのエッセイにも、ニイチェの標題をそのままイミテートして「文芸的な、あまりに文芸的な」と書いた。特に「歯車」と「西方の人」の中には、ニイチェが非常に著るしく現れて居り、死を直前に・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ 蕪村の句の理想と思しきものを挙ぐれば河童の恋する宿や夏の月湖へ富士を戻すや五月雨名月や兎のわたる諏訪の湖指南車を胡地に引き去る霞かな滝口に燈を呼ぶ声や春の雨白梅や墨芳ばしき鴻臚館宗鑑に葛水たまふ大臣かな・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・おら河童捕りしたもや。河童捕り。」藤原健太郎だ。黒の制服を着て雑嚢をさげ、ひどくはしゃいで笑っている。どうしていまごろあんな崖の上などに顔を出したのだ。「先生。下りで行ぐべがな。先生。よし、下りで行ぐぞ。」〔うん。大丈夫。大丈夫だ。・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ こないだまでその上でみんながスケートをやってたと思うモスクワ河には河童どもがいっぱいだ。 夕方、仕事から引きあげて来ると、もう早い連中が、河の堤の青い草の上へ服をぬぎすてて、バシャバシャやってる。裸身の親父がまだボシャボシャするこ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・ 茶料理で有名であり、河童忌や大観の落書きで知られた天然自笑軒が出来たのは、大正のことで、女中が提灯を下げて送って出るその門は、同じ田端でもずっと渡辺町よりにあった。 漱石は、本郷の千駄木町に住んでいたので初期の作品にはどれもよく団・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・謡は謡ですんで、内田さん、芥川さん、互に恐ろしくテムポの速い、謂わば河童的――機智、学識、出鱈目――会話をされた。どんな題目だったかちっとも覚えていない。感心したり、同時にこの頃の芥川さんは、ああ話す好みなのかと思って眺めた感じが残っていま・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・の作者があり、つづいて麦と土と花と兵隊の作者があり、やがて河童の「魚眼記」が現れている。この過程に何が語られているだろう。「土と兵隊」の作者に「魚眼記」の現れたのは誰そのひとだけにかかわった現実であって、私たちには他人のことだと云えるのだろ・・・ 宮本百合子 「日本の河童」
出典:青空文庫