・・・法師はくたびれて居てどうもしようがなかったのをたすけられてこの上もなくよろこび心をおちつけて油単の包をあらためて肩にかけながら、「私は越前福井の者でござりまするが先年二人の親に死に別れてしまったのでこの様な姿になりましたけれ共それがもうよっ・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・釣台には油単が掛って居て何も見えぬけれども人の騒ぐ音で町へ這入った事は分る。殊に往来の多いのと太鼓などの鳴って居るのとで考えると土地の祭礼であるという事も分った。上陸した嬉しさと歩行く事も出来ぬ悲しさとで今まで煩悶して居た頭脳は、祭礼の中を・・・ 正岡子規 「病」
出典:青空文庫