・・・ さあその条規も格別に、これとむつかしいことはなく、ただその閣令を出す必要は、その法令を規定したすべての条件を具えたものには、早速払い下げを許可するが、そうでないものをば一斉に書面を却下することとし、また相当の条件を具えた書面が幾通もあ・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・その中には、浮浪人もかなりたくさんいて、いろいろわるいことばかりするので、警察も急にいろいろのやかましい法令をつくり、ついで衛生上のことにもあれこれと手をつくし出した結果、恐水病をふせぐために、町中に、のら犬を歩かせないことにきめてしまいま・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・ご承知のお方もございましょうが、ここから三里はなれた山麓の寒村に在りまして、昔も今も変り無く、まあ小地主で、弟は私と違って実直な男でございますから、自作などもやっていまして、このたびの農地調整とかいう法令の網の目からも、もれるくらいのささや・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・昔の徳川時代の江戸町民は長い経験から割り出された賢明周到なる法令によって非常時に処すべき道を明確に指示され、そうしてこれに関する訓練を充分に積んでいたのであるが、西洋文明の輸入以来、市民は次第に赤ん坊同様になってしまったのである。考えるとお・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・昔の徳川時代の江戸町民は永い経験から割り出された賢明周到なる法令によって非常時に処すべき道を明確に指示され、そうしてこれに関する訓練を十分に積んでいたのであるが、西洋文明の輸入以来、市民は次第に赤ん坊同様になってしまったのである。考えると可・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・この小品は気分本位の夢幻的なものであって、必ずしも現行の法令に準拠しなければならない種類のものでもないし、少なくも自分の主観の写生帳にはちゃんと青い燈火が檣頭にかかったように描かれているから仕方がないと思ったのである。 去年の暮には、東・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・ さて、個人が頼りにならないとすれば、政府の法令によって永久的の対策を設けることは出来ないものかと考えてみる。ところが、国は永続しても政府の役人は百年の後には必ず入れ代わっている。役人が代わる間には法令も時々は代わる恐れがある。その法令・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・ 今度法令が変わると他人の家へうっかり黙ってはいって来るものにはピストルを向けてぶっ放してもいいことになるという話である。これは芝生の場合とは逆の方向への推移である。もっともアフリカ内地へでも行けば、今でも、うっかり国境へ入り込んで視察・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・いいえどかれません、じゃ法令の通りボックシングをやりましょうとなるだろう、勝つことも負けることもある、けれども僕は卑怯は嫌いだからねえ、もしすきをねらって遁げたりするものがあってもそんなやつを追いかけやしない、あとでヘルマン大佐につかまるよ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・それまでは闊達であった婦人の政治的活躍も様々の法令や規則で禁止されるようになったし、所謂筆禍によって投獄される新聞人はこの前後に目立って多数になって行った。日本の開化期の文化に関係ある統計のあるものは極めて意味深く近代日本というものの本質を・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
出典:青空文庫