・・・一族のものは市太夫の復命を聞いて、一条の活路を得たような気がした。そのうち日が立って、天祐和尚の帰京のときが次第に近づいて来た。和尚は殿様に逢って話をするたびに、阿部権兵衛が助命のことを折りがあったら言上しようと思ったが、どうしても折りがな・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・あるいは社会の改造に活路を認めるか。――それらはおのおの一つの道である。がこの場合、美の陶酔に自己の安んずる場所を認めるとすれば、それは右の諸種の道と異なった一つの特殊な道である。ここでは美への関心が善への関心の上に置かれる。そうしてあの苦・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・ この問題についても『道草』は一つの活路を暗示する。砕かれた心のみが愛を生かせ得るのである。『明暗』に至ってそれは正面から取り扱われた。「私」を去れ。裸になれ。そこに愛が生きる。そのほかに愛の窒息を救う道はない。一一 先・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫