・・・仏涅槃ののちに起った大乗の教えは、仏のお許しはなかったが、過現未を通じて知らぬことのない仏は、そういう教えが出て来るものだと知って懸許しておいたものだとしてある。お許しがないのに殉死の出来るのは、金口で説かれると同じように、大乗の教えを説く・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・家族の男女が三四人、涅槃図を見たように、それを取り巻いている。まだ余りよごれていない、病人の白地の浴衣が真白に、西洋の古い戦争の油画で、よく真中にかいてある白馬のように、目を刺激するばかりで、周囲の人物も皆褐色である。「お医者様が来てお・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・ショーペンハウエルの意志否定はかなり根元的の否定であるが、しかし彼の解脱――意志なき認識や涅槃などにおいては、なお真実に自己を活かすことが出来ると思う。 真実の自己は、意識的に分析する事の出来ないものである。それは様々な本能から成り立っ・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫