・・・一人二人の校長の狂信めいた昨今のものの見かたそのものより、それは異常であるという事を当然忠告すべきであるのに、何となし淡白に云い出しかねさせる空気が社会にあることを重大に戒心しなくてはならないと思う。 もしそんな度はずれな思いつきが実現・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・を云々する内容、傾向とはその社会的性質に於て遙かに淡白な作家気質によったのであった。横光利一氏が本年一月『改造』に発表した「厨房日記」は日本的なるものとして又人間の知性の完全無欠な形として、封建時代の義理人情を随喜渇仰する小説であって、常識・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・父が漫画めいたものを描いたとしたら、果してどんな線や色で、自身のあの政治的でない気質、淡白さ、ある子供っぽさのようなものを表現したでしょう。どのような題材を、どのようにとらえ、解釈したのでしたろう。まことに知りたいと思います。 夏目漱石・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・十人のうち何人かは、淡泊な微笑で自分たちの恋愛を認めるにちがいない。ところが、ではそれは結婚に到るものかと訊ねたとすると、恐らく全部の人が些か困惑し、或は問うまでもないこととして、結婚は思っていない意志を表明するであろう。これは何故だろうか・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・簡素であるということは単純でもあり淡白でもあるということになるだろうが岡崎義恵氏の日本文学研究の中には、淡泊であることが「生命力の稀薄のあらわれ」と見られてもいる。単純なものが俄に複雑な事象に面してどのような混乱に陥り、性急に陥るか。性格は・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・簡素であるということは単純でもあり淡白でもあるということになるだろうが岡崎義恵氏の日本文学研究の中には、淡泊であることが「生命力の稀薄のあらわれ」と見られてもいる。単純なものが俄に複雑な事象に面してどのような混乱に陥り、性急に陥るか。性格は・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ いろいろな男 生田と同居時代 同じ社の政治部の少し上の男と結婚、 その男代議士となる 女に対する淡白さ、彼女は良人を父とし、多勢若い男にとりかこまれ、良人子供をつれて客間を出、遊ばせにゆく。そういうもの分りのよさ。しか・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 極澹泊な独身生活をしている主人は、下女の竹に饂飩の玉を買って来させて、台所で煮させて、二人に酒を出した。この家では茶を煮るときは、名物の鶴の子より旨いというので、焼芋を買わせる。常磐橋の辻から、京町へ曲がる角に釜を据えて、手拭を被った・・・ 森鴎外 「独身」
・・・日本絵の具はそれに反して、あくまでもサラサラと、清水が流れ走るような淡白さを筆触の特徴とするように見える。また色彩の上から言っても、油絵の具は色調や濃淡の変化をきわめて複雑に自由に駆使し得るが、日本絵の具は混濁を脱れるためにある程度の単純化・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・手紙ではそういうこともどしどし書くし、また人からもそういう手紙を盛んに受け取ったであろうが、面と向かって話し合うときには、できるだけ淡泊に、感情をあらわに現わさずに、互いに相手の心持ちを察し合って黙々のうちに理解し合うことを望んでいたように・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫