・・・長唄、清元も然り。都て是れ坊主の読むお経の文句を聞くが如く、其意味を問わずして其声を耳にするのみ、果して其意味を解釈するも事に益することなきは実際に明なる所にして、例えば和文和歌を講じて頗る巧なりと称する女学史流が、却て身辺の大事を忘却して・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・二二※が四といえることは智識でこそ合点すべけれど、能く人の言うことながら、清元は意気で常磐津は身があるといえることは感情ならでは解らぬことなり。智識の眼より見るときは、清元にもあれ常磐津にもあれ凡そ唱歌といえるものは皆人間の声に調子を付けし・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・ 思案に暮れた独言に、この夜中で応えるのは、死んだ嫁が清元のさらいで貰った引き幕の片破ればかりだ。「全くやんなっちゃう」 今日風呂へ行くと、八百友の女房が来ていた。世間話の末、「おばさんところの異人さん、いつお産です? なか・・・ 宮本百合子 「街」
・・・是が四世清元延寿太夫である。諸書にこの人の俗称を源之助と書してあるが、あるいは後に改めたものか。仲は狩谷三平懐之の養子三右衛門矩之である。季が父の称を襲いで権右衛門と云い、質店の主人となったと云う。 梅本氏はまた香以の今一人の友小倉是阿・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・代を譲った倅が店を三越まがいにするのに不平である老舗の隠居もあれば、横町の師匠の所へ友達が清元の稽古に往くのを憤慨している若い衆もある。それ等の人々は脂粉の気が立ち籠めている桟敷の間にはさまって、秋水の出演を待つのだそうである。その中へ毎晩・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫