・・・は日本的なるものとして又人間の知性の完全無欠な形として、封建時代の義理人情を随喜渇仰する小説であって、常識ある者を驚かしたが、当時にあっては、彼の復古主義も情勢の在りように従って「紋章」の中に茶道礼讚として萌芽を表しているに止った。 か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・このような古典研究から導き出されたものはロマン派のギリシャ文化への憧憬、日本の古代文化への超現実な渇仰等であった。 古典から学べという声は、つづいて作家の教養を高めよという問題をもひき起した。日本文学の伝統の中には従来作家の作家気質とも・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 古ぼけて歪み、暗くて塵だらけだった建物の中で、餓え渇いて、ガツガツと歯をならしていたあらゆる感情、まったくあらゆる感情とほか云いようのない種々様々な感情の渇仰が、皆一どきに満たされ、潤されるのを感じたのであった。 どれをどうと説明・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・当時、その師父等と交誼のあった日本の君子等は、勿論知識と信仰とに呼醒されたこともあったに違いないが、純粋にその渇仰のみによってそうだったのだろうか。日本に於ける基督教布教史は当時乱世の有様に深く鋭く人生の疑問も抱いた敏感な上流の若い貴公子、・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・文明の発達に従いて肉の欲望はますます大となり、虚栄の渇仰はいよいよ強となる。吾人は浅薄なる皮相の下に真精神を発見したい。時代思潮に革命を起こし新時代の光明を彼岸に認めねばならぬ。「吾人は絶対に物質を超越し絶対に心霊に執着せざるべからず」。こ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫