・・・前の二匹の鳥は勿論渡り鳥であるが、異種類でありながら、非常に鳥の中が可い。両方で頻りに接吻して居る。ジャガタラ雀がじっとして居ると、キンパラはその頭をかいてやる。よくよく見て居ると、その二羽は全く夫婦となりすまして居る。その後友達がキンカ鳥・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・どうです、今年の渡り鳥の景気は。」「いや、すてきなもんですよ。一昨日の第二限ころなんか、なぜ燈台の灯を、規則以外に間〔一字分空白〕させるかって、あっちからもこっちからも、電話で故障が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡り鳥ど・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ ですから渡り鳥のかっこうや百舌も、又小さなみそさざいや目白もみんなこの木に停まりました。ただもしも若い鷹などが来ているときは小さな鳥は遠くからそれを見付けて決して近くへ寄りませんでした。 この木に二人の友達がありました。一人は丁度・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ 市の公園へは渡り鳥が来る季節である。公園の樹の梢へつるす鳥の巣箱を小学校の子供は手工でこしらえる仕度をし、中央児童図書館では、一つの本棚が五ヵ年計画、集団農場、国営農場、その他一般農作と春の動植物についての本でおきかえられた。 ―・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・あの頃と異わず私を受け入れて呉れるのは春の複雑な陰翳を持つ連山と、遠くや近くの森、ゆるやかな起伏を以て地平線迄つづく耕地、渡り鳥が翔ぶ、素晴らしい夕焼け空などである。―― 自然に対して斯う云う憧憬的な気分の時、私は殆ど一種の嫌悪を以・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
出典:青空文庫