・・・これは御目付土屋長太郎が、御徒目付、火の番などを召し連れて、番所番所から勝手まで、根気よく刃傷の相手を探して歩いたが、どうしても、その「上下を着た男」を見つける事が出来なかったからである。 すると、意外にも、相手は、これらの人々の眼には・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・いろいろ物そうなので、町々では青年団なぞがそれぞれ自警団を作り、うろんくさいものがいりこむのをふせいだり、火の番をしたりして警戒しました。 郊外から見ると、二日の日なぞは一日中、大きなまっ赤な入道雲見たいなものが、市内の空に物すごく、お・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ ○ 今はもうたきつけというほどのものもない焚物小舎によりかかって火の番をしていた。 家の女や子供たちが昨日疎開して、家のぐるりは森閑とし空がひろびろと感じられる。 古雑誌のちぎれを何心なくとり上げた・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・ 部屋に帰ってしばらく書いて居ると右の手がたまらなくけったるい。 どうしたんだろう又リョーマチかしらんと思う。 年に似合わしくない病気持が恥かしい様だ。 火の番の拍子木が馬鹿に透る。 一町ほど先の角をまがってもまだきこえ・・・ 宮本百合子 「夜寒」
出典:青空文庫