・・・ かように暗裏の鬼神を画き空中の楼閣を造るは平常の事であるが、ランプの火影に顔が現れたのは今宵が始めてである。『ホトトギス』所載の挿画 年の暮の事で今年も例のように忙しいので、まだ十三、四日の日子を余して居るにもかかわら・・・ 正岡子規 「ランプの影」
・・・ ―――――――――――― 中山の国分寺の三門に、松明の火影が乱れて、大勢の人が籠み入って来る。先に立ったのは、白柄の薙刀を手挾んだ、山椒大夫の息子三郎である。 三郎は堂の前に立って大声に言った。「これへ参ったの・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・やっと探り寄ってそこへ掛けようと思う時、丁度外を誰かが硝子提灯を持って通った。火影がちらと映って、自分の掛けようとしている所に、一人の男の寝ている髯面が見えた。フィンクは吃驚して気分がはっきりした。そして糞と云った。その声が思ったより高く一・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・うと、おそるおそる徳蔵おじの手をしっかり握りながら、テカテカする梯子段を登り、長いお廊下を通って、漸く奥様のお寝間へ行着ましたが、どこからともなく、ホンノリと来る香は薫り床しく、わざと細めてある行燈の火影幽かに、室は薄暗がりでしたが、炉に焚・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫