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・・・いわんや私のごとき、無徳無才の貧書生は、世評を決して無視できない筈である。無視どころか、世評のために生きていた。あわれ、わが歌、虚栄にはじまり喝采に終る。年少、功をあせった形である。どうも、自分の過去の失態を調子づいて罵るのは、いい図ではな・・・
太宰治
「春の盗賊」
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・・・ 妻よ。 医師よ。 亡父も照覧。「うちへかえりたいのです。」 柿一本の、生れ在所や、さだ九郎。 笑われて、笑われて、つよくなる。十一日。 無才、醜貌の確然たる自覚こそ、むっと図太い男を創る・・・
太宰治
「HUMAN LOST」