・・・私は醜いから、いままでこんなにつつましく、日蔭を選んで、忍んで忍んで生きて来たのに、どうして私をいじめるのです、と誰にともなく焼き焦げるほどの大きい怒りが、むらむら湧いて、そのとき、うしろで、「やあ、こんなところにいたのか。しょげちゃい・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ 私にはその時突然、東京の荻窪あたりのヤキトリ屋台が、胸の焼き焦げるほど懐しく思い出され、なんにも要らない、あんな屋台で一串二銭のヤキトリと一杯十銭のウィスケというものを前にして思うさま、世の俗物どもを大声で罵倒したいと渇望した。しかし・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・ 其日は朝から焦げるように暑かった。太十は草刈鎌を研ぎすましてまだ幾らもなって居る西瓜の蔓をみんな掻っ切って畢った。そうして壻の文造に麦藁から蔓から深く堀り込んでうなわせた。文造はじりじり日に照りつけられながら、時節でもない畑をうなった・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・その座敷は、目には見えないほこりが焦げる匂いがしていた。救いようなく空気は乾燥していた。そして、西日は実に眩しかった。 それは、ひろ子が四年間暮した目白の家の二階であった。二階はその一室しかなくて、ひろ子は、片手にタオルを握ったなり、乾・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫