・・・ 彼はぐっと一息に飲みほし、それからちょっちょっと舌打ちをして、「まむし焼酎に似ている」と言った。 私はさらにまた注いでやりながら、「でも、あんまりぐいぐいやると、あとで一時に酔いが出て来て、苦しくなるよ」「へえ? おか・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・わかい研究生たちと徹夜で騒ぎました。焼酎も、ジンも飲みました。きざな、ばかな女ですね。 愚痴は、もう申しますまい。私は、いさぎよく罰を受けます。窓のそとの樹の枝のゆれぐあいで、風がひどいなと思っているうちに、雨が横なぐりに降って来ました・・・ 太宰治 「水仙」
・・・という子供の絵本を一冊買って来て、炬燵にもぐり込んで配給の焼酎でも飲みながら、絵本の説明文に仔細らしく赤鉛筆でしるしをつけたりなんかして、ああ、そのさまが見えるようだ。 このごろ私は、誰にでも底知れぬほど軽蔑されて至当だと思っている。芸・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・私は、ひとりアパートに残って自炊の生活をはじめた。焼酎を飲む事を覚えた。歯がぼろぼろに欠けて来た。私は、いやしい顔になった。私は、アパートの近くの下宿に移った。最下等の下宿屋であった。私は、それが自分に、ふさわしいと思った。これが、この世の・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・貴下は御自分の貧寒の事や、吝嗇の事や、さもしい夫婦喧嘩、下品な御病気、それから容貌のずいぶん醜い事や、身なりの汚い事、蛸の脚なんかを齧って焼酎を飲んで、あばれて、地べたに寝る事、借金だらけ、その他たくさん不名誉な、きたならしい事ばかり、少し・・・ 太宰治 「恥」
・・・一例を挙げると、庭へ一面に柿の葉を並べておいて、その上に焼酎に浸した米粒をのせておく。雀が来てそれを食うと間もなく酔を発して好い気持になり、やがてその柿の葉を有合わせの蒲団にしてぐっすり寝込んでしまう。秋の日がかんかん照りつけるので柿の葉が・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・ 路地にひらいた三尺縁で、長野と深水が焼酎をのんでいた。長野は、赤い組長マークのついた菜葉服の上被を、そばの朝顔のからんだ垣にひっかけて、靴ばきのままだが、この家の主人である深水は、あたらしいゆあがりをきて、あぐらをかいている。「そ・・・ 徳永直 「白い道」
・・・或は高き処から落ちて気絶したる者あらば酒か焼酎を呑ませ、又切疵ならば取敢えず消毒綿を以て縛り置く位にして、其外に余計の工夫は無用なり。或人が剃刀の疵に袂草を着けて血を止めたるは好けれども、其袂草の毒に感じて大患に罹りたることあり。畢竟無学の・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ ――モスクワへ行ったばかりの時分は、よくウォツカの瓶握ってひょろついてる奴を見たもんだ。焼酎みたいなものなんだから、迚もまわるんだ。道ばたへ、襤褸みたいにぶっ倒れてるのも見た。革命前までロシアの労働者の飲みようと来たら底なしで、寒ぢゅ・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
出典:青空文庫