・・・れて観て行くと、外国でも女優はまだ持ち味を肉体の特長とともに一般的な女的性格の上に投げかけている程度に止っており、しかも、女優自身がいわば最も自然発生的なものの上に立って演じていることについて、自覚も煩悩も持っていないように見える。最近上演・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・ 舟橋聖一氏が四月号の『文芸』に「愛児煩悩」という短篇をかいておられるが、そこにも女学校入学試験のために苦しむ親の心、子の心が語られていて印象にのこった。口頭試問というものが、いろいろむずかしい問題をふくんでいるということが、この小説か・・・ 宮本百合子 「新入生」
・・・されどわれを煩悩の闇路よりすくいいでたまいし君、心の中には片時も忘れ侍らず」「近ごろ日本の風俗書きしふみ一つ二つ買わせて読みしに、おん国にては親の結ぶ縁ありて、まことの愛知らぬ夫婦多しと、こなたの旅人のいやしむようにしるしたるありしが、・・・ 森鴎外 「文づかい」
・・・その時までの記章にはおれが秘蔵のこの匕首(これにはおれの精神匕首を残せば和女もこれで煩悩の羈をばのう……なみだは無益ぞ』と日ごろからこの身はわれながら雄々しくしているに、今日ばかりはいかにしてこう胸が立ち騒ぐか。別離の時のお言葉は耳にとまっ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫