・・・それからまた骨董は証拠物件である。で、学者も学問の種類によっては、学問が深くなれば是非骨董の世界に頭を突込み手を突込むようになる。イヤでも黴臭いものを捻くらなければ、いつも定まりきった書物の中をウロツイている訳になるから、美術だの、歴史だの・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・木綿糸の結び玉や、毛髪や動物の毛らしいものや、ボール紙のかけらや、鉛筆の削り屑、マッチ箱の破片、こんなものは容易に認められるが、中にはどうしても来歴の分らない不思議な物件の断片があった。それからある植物の枯れた外皮と思われるのがあって、その・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・証拠物件に蝋管蓄音機が持出されたのに対して検事が違法だと咎めると、弁護士がすぐ「前例」を持出すのや、裁判長のロードの少々勘の悪いところなどが如何にもイギリスらしくて、いつものアメリカの裁判所の場面と変った空気を出しているようである。 ど・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・これらの言葉の内容はもはや箇々の物件を離れて、それぞれ一つの「学」の種子になっている。 こういう事が出来るというのが、大きな不思議である。 一体これらの言葉あるいはそれに相当する抽象的な概念は自然その物に内存していて、われわれはただ・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・そうして後に不利な証拠物件を提供するためにダンサーの指環を靴磨きに贈らせ、靴磨きの金鎚をその部屋に遺却させる。彼等のアパートにおける目撃者としてアパートの掃除婦を役立たさせるためにわざわざ浅岡に水を汲みにやって廊下でこのおばさんに出逢わせて・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・しかしながら、この慣習は女を物件化したと同時に、女の影響によって男の行動が支配されたということは、男の側としてあるまじきことという戒律が厳存した。女子供という表現は、人格以前としての軽侮を示すとともに、男の被保護的な存在と見られていたのであ・・・ 宮本百合子 「暮の街」
出典:青空文庫