・・・代の忙だしい騒音や行き塞った苦悶を描いた文芸の鑑賞に馴れた眼で見るとまるで夢をみるような心地がするが、さすがにアレだけの人気を買った話上手な熟練と、別してドッシリした重味のある力強さを感ぜしめるは古今独歩である。 二 『・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ 併し古い例であるが、故独歩の作品中のある物の如きは、読んでいると、如何にも作者自身が自然に対して思った孤独と云った感じが、一種云い難い力を以て読者の胸に迫るのを感ずる。独歩その人が悠々たる自然に対して独り感じたんだなと思うその姿がまざ・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・殊に、明治に於ける文学運動のなかでも歴史的に最も意義のある自然主義運動の選ばれた代表者、国木田独歩、田山花袋についてそれを見出すことが出来る。勿論、自然主義文学運動は、ブルジョア生産関係の反映として、「在るがまゝに現実を描き出すこと」「科学・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・明治年代の文学を回顧すると民友社というものは、大きな貢献をした事は事実であるし、蘆花、独歩、湖処子の諸君の仕事も、民友社という事からは離しては考えられない。遠くから望むと一群の林のような観をなしていたが、民友社にも種々異った意見を持った人が・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・これはこの人の独歩の世界である。 山下新太郎。 この人の絵にはかつていやな絵というものを見ない。しかし興奮もさせられない。長所であり短所である。時々は世俗のいわゆる大作を見せてくださる事を切望する。 安井會太郎。 「桐の花咲くころ」・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・これで倦怠を起こさせないためには演奏者は実に古今独歩の名手でなければならないわけである。次に二重奏連句の二人の作者が、もしその性格、情操、趣味等において互いに共通な点を多分にもっている場合には、句々の応酬はきわめて平滑に進行し、従って制作中・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 花袋君がカッツェンステッヒに心酔せられた時分、同書を独歩君に見せたら、拵らえものじゃないかと云って通読しなかったと云って、痛く独歩君の眼識に敬服しておられる。花袋君が独歩君に敬服せらるると云う意味を漱石が独歩君に敬服すると云う意味に解・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・ある西人の説に、子女ようやく長じたらば、酒を飲むも演劇を見物するも、初はまず父母とともにして、次第に独歩の自由を許すべしという者あり。この説、はなはだあたるが如し。 右に述ぶる事実、はたして違うことなくば、ある人の憂慮する少年書生の無勘・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・用語の一点においても蕪村は俳句界独歩の人なり。句法 句法は言語の接続をいう。俳句の句法は貞享、元禄に定まりて享保、宝暦を経て少しも動かず。むしろ元禄に変化したるだけの変化さえ失い、「何や」「何かな」一天張りのきわめて単調なる・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・透谷、二葉亭、独歩、漱石、鴎外、芥川龍之介、有島武郎、小林多喜二などの例が、それぞれの形で、この事実を語っている。 今日、日本のインテリゲンツィアのもっている苦悩は、日本の歴史のそのような系統をひいているものではあるが、内容は変化して来・・・ 宮本百合子 「誰のために」
出典:青空文庫