・・・も少し獅子鼻ででこぼこのある……まあこれだな、ベトーヴェンで間に合わせるんだな。青島、塗りはじめる。沢本 ああ俺はもうだめだ。興奮が過ぎ去ったら急にまた腹がへってきた。いったい花田の奴よけいなことをしやがる奴だ。あの可憐な・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・私は何故だか気の毒で、暫らく父御さんの顔を見られなかったが、やがて見ると、律義そうなその顔に猛烈な獅子鼻がさびしくのっかっており、そしてまたそれとそっくりの鼻がその人の顔にも野暮ったくくっついているのが、笑いたいほどおかしく分って、私は何と・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・ 年のころ三十七、八、猫背で、獅子鼻で、反歯で、色が浅黒くッて、頬髯が煩さそうに顔の半面を蔽って、ちょっと見ると恐ろしい容貌、若い女などは昼間出逢っても気味悪く思うほどだが、それにも似合わず、眼には柔和なやさしいところがあって、絶えず何・・・ 田山花袋 「少女病」
* 旧暦の六月二十四日の晩でした。 北上川の水は黒の寒天よりももっとなめらかにすべり獅子鼻は微かな星のあかりの底にまっくろに突き出ていました。 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん、まっ黒でし・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫