・・・ど苦しみながら、その苦しみの原因を、自分の内にあるものと、対手のひとのもっているものの考えかたの社会的な性質のちがいにおいて発見する力をもっていなかったように、自分をどうしていいか分らなかった作者が、率直に、「古き小画」のルスタムをも彼の憤・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ 諷刺は攻撃的だ。率直だ。動的で、生活的だ。 活溌な闘争にしたがう世界のプロレタリアートは、だから一方にはブルジョア社会への攻撃の武器として、他方には自己批判の武器として、諷刺をアレゴリーとはくらべものにならない効果で利用しているわ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・何故なら、率直に言ってこれは菊判六百頁に近い程長く書かせる種類の題材でなく感じられたし、長篇小説として見ればどちらかと言えば成功し難い作品であるから。しかも、作者は一種の熱中をもって主人公葉子の感情のあらゆる波を追究しようとしていて、時には・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・「それは、もう当然、問題にするべきなんです。しかし……今の理事は――」「どなたから提案なさるということも不可能なんでしょうか」「率直にいって麻痺していますからね、どの点からも――。想像もしていないでしょう」「しかたがないとい・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・常識的な大人を恐怖させるほど率直な真実探求の欲望にもえる十五六歳より以後の年代を、これらの有能な精神は、そのままの真率さで戦争のための生命否定、自我の放棄へ導きこまれた。専門学校では文科系統の学徒が容しゃなく前線へ送り出され、理科系統のもの・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ 十五六歳のういういしい情感の上にそのさまざまな姿が描かれるばかりでなく、二十歳をかなり進んだひとたちも三十歳の人妻もあるいは四十歳を越して娘が少女期を脱しかけている年頃の女性たちも、率直な心底をうちわってその心持を披瀝すれば、案外にも・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・自分ではひどく不満足に思っているが、率直な、一切の修飾を却けた秀麿の記述は、これまでの卒業論文には余り類がないと云うことであった。 丁度この卒業論文問題の起った頃からである。秀麿は別に病気はないのに、元気がなくなって、顔色が蒼く、目が異・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・しかしこの方面の批評をした人の中には、「世間がファウストを本質以上に買い被っていた迷を、私の平俗な文と演出者の率直な技とで打破したのだ、私と演出者とは偶像破壊者だ」と云った人もある。これは一種の諷刺のようにも聞き取られるが、ある友達の云うに・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・であって、その点、伝統的な思想と少しも変わらないのであるが、しかしその正直を説く態度のなかに、前代に見られないような率直さ、おのれを赤裸々に投げ出し得る強さが見られると思う。「上たるをば敬ひ、下たるをばあはれみ、あるをばあるとし、なきをばな・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・実に人間的に率直に悲しんでいられる。亡きわが児が可愛いのは何の理由もない、ただわけもなく可愛い。甘いものは甘い、辛いものは辛いというと同じように可愛い。ここまで育てて置いて亡くしたのは惜しかろうと言って同情してくれる人もあるが、そんな意味で・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫