・・・しかしまた現代の日本橋は、とうてい鏡花の小説のように、動きっこはないとも思っていた。 客は註文を通した後、横柄に煙草をふかし始めた。その姿は見れば見るほど、敵役の寸法に嵌っていた。脂ぎった赭ら顔は勿論、大島の羽織、認めになる指環、――こ・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・の中に、「現代の作家は何人でも人道主義を持っている。同時に何人でもリアリストたらざる作家はない。」と云う意味を述べた一節がある。現代の作家は彼の云う通り大抵この傾向があるのに相違ない。しかし現代の作家の中でも、最もこの傾向の著しいものは、実・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・終わりに臨んで諸君の将来が、協力一致と相互扶助との観念によって導かれ、現代の悪制度の中にあっても、それに動かされないだけの堅固な基礎を作り、諸君の精神と生活とが、自然に周囲に働いて、周囲の状況をも変化する結果になるようにと祈ります。・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ かつて河上肇氏とはじめて対面した時、氏の言葉の中に「現代において哲学とか芸術とかにかかわりを持ち、ことに自分が哲学者であるとか、芸術家であるとかいうことに誇りをさえ持っている人に対しては自分は侮蔑を感じないではいられない。彼らは現代が・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・なるべく現代の言葉に近い言葉を使って、それで三十一字に纏りかねたら字あまりにするさ。それで出来なけれあ言葉や形が古いんでなくって頭が古いんだ。B それもそうだね。A のみならず、五も七も更に二とか三とか四とかにまだまだ分解することが・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・強権の勢力は普く国内に行わたっている。現代社会組織はその隅々まで発達している。――そうしてその発達がもはや完成に近い程度まで進んでいることは、その制度の有する欠陥の日一日明白になっていることによって知ることができる。戦争とか豊作とか饑饉とか・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
時。 現代、初冬。場所。 府下郊外の原野。人物。 画工。侍女。 貴夫人。老紳士。少紳士。小児五人。 ――別に、三羽の烏。小児一 やあ、停車場の方の、・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・ 普通、草双紙なり、読本なり、現代一種の伝奇においても、かかる場合には、たまたま来って、騎士がかの女を救うべきである。が、こしらえものより毬唄の方が、現実を曝露して、――女は速に虐げられているらしい。 同時に、愛惜の念に堪えない。も・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ お町は云うまでもなく、お近でも兼公でも、未だにおれを大騒ぎしてくれる、人間はなんでも意気で以て思合った交りをする位楽しみなことはない、そういうとお前達は直ぐとやれ旧道徳だの現代的でないのと云うが、今の世にえらいと云われてる人達には、意・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・ 今時の聖書研究は大抵は来世抜きの研究である、所謂現代人が嫌う者にして来世問題の如きはない、殊に来世に於ける神の裁判と聞ては彼等が忌み嫌って止まざる所である、故に彼等は聖書を解釈するに方て成るべく之れを倫理的に解釈せんとする、来世に関する聖・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
出典:青空文庫