・・・「イヤ僕こそ甚だお恥しい話だがこれで矢張り作たものだ、そして何かの雑誌に二ツ三ツ載せたことがあるんだ! ハッハッハッハッハッ」「ハッハッハッハッハッ」と一同が噴飯して了った。「そうすると諸君は皆詩人の古手なんだね、ハッハッハッハ・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・他人の者を拾ったら直ぐ私の所へ持て出るのが当前だのにそれを自分の者に為るということは盗んだも同じことで、甚だ善くないことですよ。その鉛筆を直ぐこの人にお返しなさい」と厳かに命つけた。 そんならば何故自分は他人の革包を自分の箪笥に隠して置・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・余、甚だ然りと答へ、ともに奮励して大いに為すあらんことを誓ひき」と。明かに×××的意義を帯びていた日清戦争に際して、ちょうど、国民解放戦争にでも際会したるが如き歓喜をもらしている。また、威海衛の大攻撃と支那北洋艦隊の全滅を通信するにあたって・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
わたくしの学生時代の談話をしろと仰ゃっても別にこれと云って申上げるようなことは何もございません。特にわたくしは所謂学生生活を仕た歳月が甚だ少くて、むしろ学生生活を為ずに過して仕舞ったと云っても宜い位ですから、自分の昔話をして今の学生諸・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・のようなものにしても生硬粗雑で言葉づかいも何もこなれて居ないものでありましたならば、後の同路を辿るものに取って障礙となるとも利益とはなっていなかったでしょうが、立意は新鮮で、用意は周到であった其一段が甚だ宜しくって腐気と厭味と生煮とを離れた・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・ 左れど天命の寿命を全くして、疾病もなく、負傷もせず、老衰の極、油尽きて火の滅する如く、自然に死に帰すということは、其実甚だ困難のことである、何となれば之が為めには、総ての疾病を防ぎ総ての禍災を避くべき完全の注意と方法と設備とを要するか・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・鬼工であった、予は先生の遺稿に対する毎に、未だ曽て一唱三嘆、造花の才を生ずるの甚だ奇なるに驚かぬことはない。殊に新聞紙の論説の如きは奇想湧くが如く、運筆飛ぶが如く、一気に揮洒し去って多く改竄しなかったに拘らず、字句軒昂して天馬行空の勢いがあ・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・ その男は、甚だ身だしなみがよかった。鼻をかむのにさえ、両手の小指をつんとそらして行った。洗練されている、と人もおのれも許していた。その男が、或る微妙な罪名のもとに、牢へいれられた。牢へはいっても、身だしなみがよかった。男は、左肺を少し・・・ 太宰治 「あさましきもの」
・・・あの、兄ともあろうお人が、どうしてこんなものを発表する気になったか、私は、いまは残念にさえ思います。甚だ、書きにくいのでありますが、それは、こんな詩なのであります。「あかいカンナ」というのと、「矢車の花いとし」というのと、二つでありますが、・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・そういう人々にとってこのモスコフスキーの著書は甚だ興味のあるものであろう。 モスコフスキーとはどういう人か私は知らない。ある人の話ではジャーナリストらしい。自身の序文にもそうらしく見える事が書いてある。いずれにしても著述家として多少認め・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫