・・・石畳で穿下した合目には、このあたりに産する何とかいう蟹、甲良が黄色で、足の赤い、小さなのが数限なく群って動いて居る。毎朝この水で顔を洗う、一杯頭から浴びようとしたけれども、あんな蟹は、夜中に何をするか分らぬと思ってやめた。 門を出ると、・・・ 泉鏡花 「星あかり」
・・・ほかにわずかに鳥毛を産するファロー島があります。またやや富饒なる西インド中のサンクロア、サントーマス、サンユーアンの三島があります。これ確かに富の源でありますが、しかし経済上収支相償うこと尠きがゆえに、かつてはこれを米国に売却せんとの計画も・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・その外、都にて園に植うる滝菜、水引草など皆野生す。しょうりょうという褐色の蜻あり、群をなして飛べり。日暮るる頃山田の温泉に着きぬ。ここは山のかいにて、公道を距ること遠ければ、人げすくなく、東京の客などは絶て見えず、僅に越後などより来りて浴す・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫