・・・ 天国の民 天国の民は何よりも先に胃袋や生殖器を持っていない筈である。 或仕合せ者 彼は誰よりも単純だった。 自己嫌悪 最も著しい自己嫌悪の徴候はあらゆるものにうそを見つけることで・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・それは、よく廻った独楽が完全な静止に澄むように、また、音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように、灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心を撲たずにはおかない、不思議な、生き生きとした、美しさだ。 しかし、昨日、・・・ 梶井基次郎 「桜の樹の下には」
・・・現実主義者が恋愛は性慾と生殖作用の上部構造にすぎないといっても、精神的憧憬の深いイデアリストは恋愛が性慾をこえた側面を持ち、むしろそのこえんとする悩みにこそ、恋愛の秘義があると主張してやまないであろう。 青年学生はいずれ関心事たる恋愛に・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・恋愛である。生殖である。これがためには、ただちに自己を破壊しさってくやまない、かえりみないのも、また自然の傾向である。前者は利己主義となり、後者は博愛心となる。 この二者は、古来氷炭相容れざるもののごとくに考えられていた。また事実におい・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・成程人間、否な総ての生物には、自己保存の本能がある、栄養である、生活である、之に依れば人は何処までも死を避け死に抗するのが自然であるかのように見える、左れど一面には亦た種保存の本能がある、恋愛である、生殖である、之が為めには直ちに自己を破壊・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・はげしいのは、生殖の途が絶たれてしまうそうだが、中には先生のようになるのもあるということだ。よく例があるって……僕にいろいろ教えてくれたよ。僕はきっとそうだと思う。僕の鑑定は誤らんさ」 「僕は性質だと思うがね」 「いや、病気ですよ、・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・竹が美しい若葉を着けるのは、子が既に若竹になってからである。生殖を営んで居る間の衰えということをある時つくづく感じたことがあった。 花曇り、それが済んで、花を散らす風が吹く。その後に晩春の雨が降る。この雨は多く南風を伴って来る。昨日の花・・・ 田山花袋 「新茶のかおり」
・・・アフリカでは食うことの不自由はないであろうからやはり生命の敵に対する防衛の便宜から自然に集団生活に慣らされたのか、それとも生殖の便宜からか、あるいはスポーツのためだか自分にはわからない。それはとにかくアフリカ映画でこれらのたくさんな動物の群・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・蜜蜂の雄虫は生殖の役目を果たすと同時に空中から石のごとく墜ちて死ぬ。かまきりの雄は雌に食われてその栄養になる。こういう現象の共通性はどうも偶然とは思われない。種族の保存上必要な天然の経済理法によるものかもしれない。人間の場合にこの理法がどう・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・植物でも少しいじめないと花実をつけないものが多いし、ぞうり虫パラメキウムなどでもあまり天下泰平だと分裂生殖が終息して死滅するが、汽車にでものせて少しゆさぶってやると復活する。このように、虐待は繁盛のホルモン、災難は生命の醸母であるとすれば、・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
出典:青空文庫