・・・物的環境が正しく調節されることは、生命が正しく生長することである。唯物史観は単なる精神外の一現象ではなくして、実に生命観そのものである。種子を取りまいてその生長にかかわるすべての物質は、種子にとって異邦物ではなく、種子そのものの一部分となっ・・・ 有島武郎 「想片」
・・・、外国人に誇るべき日本の美術品と云えば、直ぐ茶器を持出すの事実あるを知りながら、茶の湯なるものが、如何に社会の風教問題に関係深きかを考えても見ないは甚だ解し難き次第じゃないか、乍併多くは無趣味の家庭に生長せる彼等は、大抵真個の茶趣味の如何な・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・しかしてこれを取り来りてノルウェー産の樅のあいだに植えましたときに、奇なるかな、両種の樅は相いならんで生長し、年を経るも枯れなかったのであります。ここにおいて大問題は釈けました。ユトランドの荒野に始めて緑の野を見ることができました。緑は希望・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・そして、子供は生長して社会に立つようになっても、母から云い含められた教訓を思えば、如何なる場合にも悪事を為し得ないのは事実である。何時も母の涙の光った眼が自分の上に注がれて居るからである。これは架空的の宗教よりも強く、また何等根拠のない道徳・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・ます/\持っている、よいところを生長させることが当然として考えられなければならない筈なのだ。 子供の純真な姿を見た者は、決して、この人間に対して、絶望をしないであろう。もし人間が救われないものなれば、誰か、人間に対して、理想と信条を有し・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・ 人間の知識的生長は、いうまでもなく最も個人的である。従って一定の規矩を以て、その生長を制限することは、極めて愚しい事である。殊に才能の点に於て特殊的なる文学方面は、それが一層甚だしいといわねばならない。 たゞ然し、最も妥当なる順序・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・ 人間が生存する限り、生長が、社会のすべてに期待される。けれど、今日は、芸術――広く言えば文壇が、特に、私的生活と複雑な関係を有するだけに、単純に批判されないものがある。 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・自分はもと山多き地方に生長したので、河といえばずいぶん大きな河でもその水は透明であるのを見慣れたせいか、初めは武蔵野の流れ、多摩川を除いては、ことごとく濁っているのではなはだ不快な感を惹いたものであるが、だんだん慣れてみると、やはりこのすこ・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・桃栗何年とか云われるように桃は一体不思議なほど早く生長して早くなるものである。が、その樹齢はかなり短い。十年そこそこで、廃木となる。梅は実生からだと十年あまりかかって始めて花が咲き実を結びはじめる。が、樹齢は長い。古い大木となって、幹が朽ち・・・ 黒島伝治 「短命長命」
・・・彼女達は絶えず生長しているのである。生長するに従って、その眼も、慾望も変化し進歩しているのだ。 清吉は三人の子供を持っていた。三人目は男子だったが、上の二人は女だった。長女は既に十四になっている。 夫婦揃って子供思いだったので、子供・・・ 黒島伝治 「窃む女」
出典:青空文庫