・・・するとそのうちの、色の浅黒い男振りのいい捷っこそうな一人が立って、激した調子で云いかえした。それは吉原だった。将校が云いこめられているようだった。そして、兵卒の方が将校を殴りつけそうなけはいを示していた。そこには咳をして血を咯いている男も坐・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・溝へ放棄り経綸と申すが多寡が糸扁いずれ天下は綱渡りのことまるまる遊んだところが杖突いて百年と昼も夜ものアジをやり甘い辛いがだんだん分ればおのずから灰汁もぬけ恋は側次第と目端が利き、軽い間に締りが附けば男振りも一段あがりて村様村様と楽な座敷を・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・もっとも、多情な奴に限って奇妙にいやらしいくらい道徳におびえて、そこがまた、女に好かれる所以でもあるのだがね。男振りがよくて、金があって、若くて、おまけに道徳的で優しいと来たら、そりゃ、もてるよ。当り前の話だ。お前のほうでやめるつもりでも、・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・は、たいへん男振りが自慢らしく、いつかその人の選集を開いてみたら、ものの見事に横顔のお写真、しかもいささかも照れていない。まるで無神経な人だと思った。 あの人にとぼけるという印象をあたえたのは、それは、私のアンニュイかも知れないが、しか・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・羽左衛門と梅幸の襲名披露で、こんどの羽左衛門は、前の羽左衛門よりも、もっと男振りがよくって、すっきりして、可愛くって、そうして、声がよくって、芸もまるで前の羽左衛門とは較べものにならないくらいうまいんですって。」「そうだってね。僕は白状・・・ 太宰治 「フォスフォレッスセンス」
・・・しかし世間並から言えば、かなりの男振りで、立派に通用するのである。 ポルジイは暇を遣るとき握手して遣ることは出来なかった。それは自分の手が両方共塞がっていたからである。右には紙巻烟草を持っていた。左には鞭を持っていた。鞭を持っていたのは・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・とかく柔弱たがる金縁の眼鏡も厭味に見えず、男の眼にも男らしい男振りであるから、遊女なぞにはわけて好かれそうである。 吉里が入ッて来た時、二客ともその顔を見上げた。平田はすぐその眼を外らし、思い出したように猪口を取ッて仰ぐがごとく口へつけ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫