・・・が、僕や僕と一しょに行った室生犀生君に画帖などを示し、相変らず元気に話をした。 滝田君に最後に会ったのは今年の初夏、丁度ドラマ・リイグの見物日に新橋演舞場へ行った時である。小康を得た滝田君は三人のお嬢さんたちと見物に来ていた。僕はその顔・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎君」
・・・が、やむを得ない場合だけは必ず画帖などにこう書いていた。君看双眼色不語似無愁 3 一等戦闘艦×× 一等戦闘艦××は横須賀軍港のドックにはいることになった。修繕工事は容易に捗どらなかった。二万噸の××は・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・香、扇子、筆墨、陶器、いろいろな種類の紙、画帖、書籍などから、加工した宝石のようなものまで、すべて支那産の品物が取りそろえてあったあの店はもう無い。三代もかかって築きあげた一家の繁昌もまことに夢の跡のようであった。その時はお三輪も胸が迫って・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・しかし、ずっと前に同じような断片群にターナーの画帖から借用した Liber Studiorum という名前をつけたことがあったが、それを文壇の某大家が日刊新聞の文芸時評で紹介してくれたついでに「こんなラテン語の名前などつけるものの気が知れな・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・近頃某氏のために揮毫した野菜類の画帖を見ると、それには従来の絵に見るような奔放なところは少しもなくて全部が大人しい謹厳な描き方で一貫している、そして線描の落着いたしかも敏感な鋭さと没骨描法の豊潤な情熱的な温かみとが巧みに織り成されて、ここに・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・これを取り集めて丁寧に画帖に貼り込んだものを見たことがあった。当時の世の中を回顧するにはよい材料である。戦後文学また娯楽雑誌が挿絵といえば女の裸体でなければならないように一様に歩調を揃えているのも、後の世になったらむしろ滑稽に思われるであろ・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・それに写真画帖のようなものを持ち、「お買い下さい。いりません?」 買いと云う字に妙なアクセントをつけながら、笑顔とともに遠慮深く、一級の売ものをすすめているのだ。 見ていると――ほら、一人の鳥打帽の男が不自然な弧を描いて、一層低・・・ 宮本百合子 「小景」
出典:青空文庫