・・・佳い心持になって、自分は暫時くじっとしていたが、突然、そうだ自分もチョークで画いて見よう、そうだという一念に打たれたので、そのまま飛び起き急いで宅に帰えり、父の許を得て、直ぐチョークを買い整え画板を提げ直ぐまた外に飛び出した。 この時ま・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・』『すっかり忘れていた、失敬失敬、それよりか君に見せたい物があるのだ、』と風呂敷に包んでその下をまた新聞紙で包んである、画板を取り出して、時田に渡した。時田は黙って見ていたが、『どこか見たような所だね、うまくできている。』『そら・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・『そうですとも、ほんとにね兄さん、昨日も日が西に傾いて窓から射しこむと机の上に長い影を曳いて、それをぼんやり見ていると何だか哀れぽい物悲しい心持ちがして来ましたが、ふと画の事を考えて、そうだ今だとすぐ画板を引っ掛けて飛び出ました。画のためと・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・然し、画板一杯に懶けている労働者だけ精出して描写したってそれは弁証法的でもなければ、従ってプロレタリア的でもない。その漫画を見たものが積極的な側を、理解するように扱われなければならないのだ。 文学における諷刺も同様なのは云うをまたない。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 植物園とさえ云えばいつも思い出す多勢の画板を持った人達とそこいら中にだらしなく紙だの果物の皮等を取り乱して食べては騒ぎ、騒いではつめ込んで居る子供と、彼等と同じ様な大人は、冬枯れて見る花もない今日等はちっとも来て居ないので、彼の広い内・・・ 宮本百合子 「小さい子供」
出典:青空文庫