・・・しかし自分達が何様扱われるかは更に測り知られぬので、二人は畏服の念の増すに連れ、愈々底の無い恐怖に陥った。 男はおもむろに室の四方を看まわした。屏風、衝立、御厨子、調度、皆驚くべき奢侈のものばかりであった。床の軸は大きな傅彩の唐絵であっ・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・大観、栖鳳と云えば、ああ、と大家たることへの畏服を用意している人々が、必ずしも絵画を理解しているとは云えないのと同じである。 秋声は、畏れられる作家、そういう大家ぶりの作家ではなかった。世俗的な威風に満たず時に逸脱しその逸脱の本質は「元・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・それは恐らく自己の人格を圧倒する力に対して畏服しないではいられない衝動にもとづくものであろう。同時にまたそれは我々の内のかくのごとき力を求める心に、もとづくものであろう。神はこの力の象徴であった。神が滅ぼされた時には悪魔が代わって象徴となっ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫