・・・ おらもどうも疝気がきざした。さあ、誰ぞ来てやってくれ、ちっと踞まねえじゃ、筋張ってしょ事がない、と小半時でまた理右衛門爺さまが潜っただよ。 われ漕げ、頭痛だ、汝漕げ、脚気だ、と皆苦い顔をして、出人がねえだね。 平胡坐でちょっと磁石・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・「そのまた薬の効能は、疝気疝癪胸痞え」までは覚えているがその先は忘れてしまった。 子供らはこの薬売りの人間を「ホンケ」と呼んでいた。「ホンケが来たホンケが来た」と言って駆け出して行っては、この「ホンケ」を取り巻いて、そうして口々に「ホン・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・り、鞍に尻をおろさざるなり、ペダルに足をかけざるなり、ただ力学の原理に依頼して毫も人工を弄せざるの意なり、人をもよけず馬をも避けず水火をも辞せず驀地に前進するの義なり、去るほどにその格好たるやあたかも疝気持が初出に梯子乗を演ずるがごとく、吾・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・冬の夜のヒューヒュー風が吹く時にストーヴから煙りが逆戻りをして室の中が真黒に一面に燻るときや、窓と戸の障子の隙間から寒い風が遠慮なく這込んで股から腰のあたりがたまらなく冷たい時や、板張の椅子が堅くって疝気持の尻のように痛くなるときや、自分の・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫