・・・私店けし入軽焼の義は世上一流被為有御座候通疱瘡はしか諸病症いみもの決して無御座候に付享和三亥年はしか流行の節は御用込合順番札にて差上候儀は全く無類和かに製し上候故御先々様にてかるかるやきまたは水の泡の如く口中にて消候ゆゑあはかるやき・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・それから一日二日して自分はその三人の病症を看護婦から確めた。一人は食道癌であった。一人は胃癌であった、残る一人は胃潰瘍であった。みんな長くは持たない人ばかりだそうですと看護婦は彼らの運命を一纏めに予言した。 自分は縁側に置いたベゴニアの・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・殊に病気の時など医師に対して自から自身の容態を述ぶるの法を知らず、其尋問に答うるにも羞ずるが如く恐るゝが如くにして、病症発作の前後を錯雑し、寒温痛痒の軽重を明言する能わずして、無益に診察の時を費すのみか、其医師は遂に要領を得ずして処方に当惑・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 永年糖尿病をもって居られ、そこから生じた複雑な病症で、経過は困難であった。おうちの方々は実に母さん孝行で、峰子さんなどは、自分の家庭とお母さんの看病と、おどろくばかり献身された。長男の鉄夫さんが花嫁をもらわれ、勝彦さんが出征され、松の・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ 白衣の下に女子青年共産党の服をつけた赤い顔の娘が臨床記録を書くための質問を始めた。病症の経過。生年月日 職業 過去の健康状態 父母と弟妹の健康状態――祖父さんに性病はありませんでしたか 生物遺伝子は三代目のモルモットに最も興味・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・Intエントレッサン の病症でなくては厭き足らなく思う。又偶々所謂興味ある病症を見ても、それを研究して書いて置いて、業績として公にしようとも思わなかった。勿論発見も発明も出来るならしようとは思うが、それを生活の目的だとは思わない。始終何か更・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫