・・・文学は逆に云えば、最も痛烈な人間的生の発現である。 私どもはここで、一つの現実的理解に到達した。文学の発展にはそれにふさわしい社会的な基盤が必要であり、勤労階級の生活の安定の要求は全くぴったりと私たちの人間らしい文化の要求と一体のもので・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・汚辱、羞恥とは自己を摘発することだと第一回にいわれているほんとうに痛烈なモティーヴが作者にありますならば、どうして作者は、花村が、私生子であるということで自分をいじめ、自分が傷けられたとき、花村にそう云わせた動機は主人公の少年によってつくら・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・もっと突込んで、痛烈に、愛の無い冷酷な社会的偽善としての結婚の形態の内幕と、無方向に迸る激しい愛の渇望の悲劇を描いたものであった。トルストイが彼の貴族地主としての生活環境の中で、結婚と家庭生活の実体を厳しく省察したとき、人道主義的な立場から・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・日本の自然主義作家が、一度は確立された自我に向って振う痛烈な自己の鞭打の精神力をもち得ず、低く日常茶飯事を観照し写実的作用を営むところに定着してしまったのは、理由ないことではなかった。 明治四十年から十年間に亙る旺盛な文学活動において、・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ 労働者が公然読むことを許されている『グラジュダニン』や『ルッチ』のような極反動的な新聞が、繰返し、痛烈にそれ等の著作をこき下していることから、彼の好奇心が刺戟されたのであった。 シャポワロフは様々の苦しい、いきさつの後、「きっぱりとこ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・子供たちがいるとき、子供は母を失うか父を失うかしなければならず、その痛手は、子供にとって実に痛烈である。結婚の自由、そして離婚の自由があるとき、すべての人は、女も男も、自分たちの心のなかに一つの声をきくと思う。――みなさまの責任は? みなさ・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・ 私たちは実に痛烈に露出されている今日の矛盾の中に生き明日へよりよく生き抜かんとしているのであるけれども、日本では今日の女の上にただ今日の陰翳がさしかかっているばかりでない。非常にのろのろと傾きかかり、目前だけを見ればますますその投影が・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ 漱石は『吾輩は猫である』のなかで、金持ちの実業家やそれに近づいて行くものを痛烈にやっつけている。また西園寺首相の招待を断わって新聞をにぎわせた。そういうことから私たちは漱石が権門富貴に近づくことをいさぎよしとしない人であるように思い込・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫