・・・そして癲癇のような烈しい発作は現われなくなった。もし母が昔の女の道徳に囚れないで、真の性質のままで進んでいったならば、必ず特異な性格となって世の中に現われたろうと思う。 母の芸術上の趣味は、自分でも短歌を作るくらいのことはするほどで、か・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・因果でそれなりにもしておけないので三所も四所も出て長持のはげたのを昔の新らしい時のようにぬりなおして木薬屋にやると男にこれと云うきずもなく身上も云い分がないんでやたらに出る事も出来ないので化病を起して癲癇を出して目をむき出し口から沫をふき手・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・再び、あの悲壮らしい厳粛らしい悪夢に酔わされるなんて事は絶対に無くなったようですが、しかしその小さい音は、私の脳髄の金的を射貫いてしまったものか、それ以後げんざいまで続いて、私は実に異様な、いまわしい癲癇持ちみたいな男になりました。 と・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一つの刺七、彼が約束を守らぬということ。 その他、到れり尽せりの人身攻撃を受けたようである。 今官一君が、いま、パウロの事を書いているのを知り、私も一夜、手垢の附いた聖書を取り出して・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・おれは癲癇病みもやってみた。口にシャボンを一切入れて、脣から泡を吹くのだ。ところが真に受ける奴は一人も無い。馬鹿にして笑ってけつかる。それにいつでも生憎手近に巡査がいて、おれの頸を攫んで引っ立てて行きゃあがった。それから盲もやってみた。する・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・が、そのやりかたは、古典作家、たとえばドストイェフスキーなどが癲癇という独特な病気をもちながら、彼の生きた時代のロシアの歴史の制約性と、自身の限界性によって描いた作品をそれなり随喜鑽仰することではない。彼の芸術的現実に現れている深刻な矛盾に・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・労働者のクラブには衛生陳列室があって、性病とその遺伝の害悪を模型や図解で示し、肺病、癲癇、アルコール中毒等についても若者たちの具体的、日常的要心を喚起している。 竹内茂代女史は、日本女子の体格分類統計をもって医学博士になられた。彼女の博・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・墓地の番人で癲癇持ちのヤージ。一番年かさなのは後家で酒飲みの裁縫女の息子グリーシュカ。これは分別の深い正しい人間で、熱情的な拳闘家である。 後年、ゴーリキイは当時を回想して書いている。かっ払いは「半飢の小市民にとって生活のための殆ど唯一・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・それにあの男の作は癲癇病みの譫語に過ぎない。Gorki は放浪生活にあこがれた作ばかりをしていて、社会の秩序を踏み附けている。これも危険である。それに実生活の上でも、籍を社会党に置いている。Artzibaschew は個人主義の元祖 Sti・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫