・・・これが私の発見だったのである。噛まれるや否や、その下らない奴は、直ちに悲鳴をあげた。私の古い空想はその場で壊れてしまった。猫は耳を噛まれるのが一番痛いのである。悲鳴は最も微かなところからはじまる。だんだん強くするほど、だんだん強く鳴く。Cr・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・に登ると、思の外、北風が身に沁ので直ぐ麓に下て其処ら日あたりの可い所、身体を伸して楽に書の読めそうな所と四辺を見廻わしたが、思うようなところがないので、彼方此方と探し歩いた、すると一個所、面白い場所を発見けた。 砂山が急に崩げて草の根で・・・ 国木田独歩 「運命論者」
・・・真理を発見せんとするときわれらは如何なる条件を満たさねばならぬか。真理の認識はいかなる法則に依従するか――。かくの如き意味に真理を解するならその解答は可能である。ジットリヒカイトの場合にも厳密にこれと等しい。ある特別の場合に正しく行為せんた・・・ 倉田百三 「学生と教養」
一 彼の出した五円札が贋造紙幣だった。野戦郵便局でそのことが発見された。 ウスリイ鉄道沿線P―の村に於ける出来事である。 拳銃の這入っている革のサックを肩からはすかいに掛けて憲兵が、大地を踏みなら・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・よしカネ、まず我輩が宇宙を貫ぬく大真理を発見した履歴を話そうよ。僕がネ幼少の時にフト感じた事があるのサ。実にネ、大発明というものはつまらない所から起るもので、僕の大真理は道から出たのサ。僕が田舎に居て小学校へ通う時分にネ、草の茂ッた広い野を・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・という意味でも、此処は別荘であるということを、俺は発見した。俺だちは、だから此処で、出て行く迄に新しい精気と強い身体を作っておかなければならないのだ。 だが、さすがにこの赤色別荘は、一銭の費用もかゝらないし、喜楽的などころか、毎日々々が・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・耳を澄まして注意をしていると、夏になると同時に、虫が鳴いているのだし、庭に気をくばって見ていると、桔梗の花も、夏になるとすぐ咲いているのを発見するし、蜻蛉だって、もともと夏の虫なんだし、柿も夏のうちにちゃんと実を結んでいるのだ。 秋は、・・・ 太宰治 「ア、秋」
・・・ さてこうなった所で、ポルジイはこれまで自分の身に覚えのない感情を発見した。それは妬である。ドリスの噂に上ぼる人が皆妬ましい。ドリスの逢ったと云う人が皆妬ましい。 それに別荘は夏住まいに出来ているのだから、余り気持ちが好くなくなった・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・私はその日記の中に、志を抱いて田舎に埋もれて行く多くの青年たちと、事業を成しえずに亡びていくさびしい多くの心とを発見した。私は『田舎教師』の中心をつかみ得たような気がした。 日記は、その死の前一日までつけてある。もちろん、寝ながら、かつ・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・ところが近代になって電子などというものが発見され、あらゆる電磁気や光熱の現象はこの不思議な物の作用に帰納されるようになった。そしてこの物が特別な条件の下に驚くべき快速度で運動する事も分って来た。こういう物の運動に関係した問題に触れ初めると同・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
出典:青空文庫