・・・なんでもかまわないから、白色のものさえあればよい。ネギの白味、豚の白味、茶碗の欠片、白墨など。細い板の上にそれらのどれかをくくりつけ、先の方に三本ほど、内側にまくれたカギバリをとりつける。そして、オモリをつけて沈めておくと、タコはその白いも・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・壁の貼紙は明色、ほとんど白色にして隠起せる模様及金箔の装飾を施せり。主人クラウヂオ。(独窓の傍に座しおる。夕陽夕陽の照す濡った空気に包まれて山々が輝いている。棚引いている白雲は、上の方に黄金色の縁を取って、その影は灰色に見えている。・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・なるほどやっぱり陳氏だ、お経にある青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光をやったんだなと、私はつくづく感心してそれを見上げました。全くその蓮華のはなびらは、ニュウファウンドランド島、ヒルテイ村ビジテリアン大祭の、新鮮な朝のそらを、かすかに光・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ ブルジョア国の革命的プロレタリアートは、同じ頃、盛んにメーデー闘争の準備のために白色テロルと争いながら活躍している。 が、プロレタリアートが勝利したソヴェト同盟では、ほんとに解放されたプロレタリアート祝祭準備だ。 八時間労働が・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
荒漠たる原野――殊に白雪におおわれて無声の呪われた様な高原に次第次第に迫って来る夜はまことに恐ろしいほど厳然とした態度をもって居る。 灰色と白色との合するところに細く立木が並んで居るほか植物は影さえもなく町に通わなけれ・・・ 宮本百合子 「どんづまり」
・・・ 日本のように、資本主義独裁と白色テロールの旺盛なところで、階級闘争は激化し、イディオロギー的差異は有無を云わせず作家の陣営を決定しつつある。既に一九二七年、右翼的固執を示した労芸の内部の情勢が三年間停止している筈はない。前田河が発表す・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・革命十四年目にあるソヴェト・ロシアの絵は、勝利したプロレタリアート管理の下に拡大されつつある生産を農業の集団化を記念碑的に表現している。白色テロルと戦いつつある日本の上野におけるプロレタリア美術展の画は、日常闘争の報告と、階級意識への熱心な・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
・・・一九二九年来プロレタリア解放運動における革命的プロレタリアートの役割、実力、指導権が、ひどい白色テロに抗して強化されつつある。その革命的大衆によって、「ナップ」は実践によって唯一の彼らの階級的芸術団体と認められたのだ、と。 これは、五ヵ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・乾けば素焼のように素朴な白色を現した。だが、その表面に一度爪が当ったときは、この湿疹性の白癬は、全図を拡げて猛然と活動を開始した。 或る日、ナポレオンは侍医を密かに呼ぶと、古い太鼓の皮のように光沢の消えた腹を出した。侍医は彼の傍へ、恭謙・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・花びらのとがった先だけが紅色に薄くぼかされていて、あとの大部分は白色である。この手の花が最も普通であったように思う。しかし舟が、葉や花を水に押し沈めながら進んで行くうちに、何となく周囲の様子が変わってくる。いつの間にか底紅の花の群落へ突入し・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫