・・・これらはみんな畜産の、その教師の語気について、豚が直覚したのである。(とにかくあいつら二人は、おれにたべものはよこすが、時々まるで北極の、空のような眼をして、おれのからだをじっと見る、実に何ともたまらない、とりつきばもないようなきびしいここ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ 有島さんは非常に人を観るの直覚力が鋭くあったようですが、従ってその死に対しても可なり深い理智の力によってそれを見通されたことではあろうが、人間の力は単に、人間の脳力によって肯定され否定され得る理智の力、即ち首から上の事だけで解決の出来・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・人情によって理解し、直覚し得たところを、理想に燃える知で文学にした。情と知とを二分別し得るものとすれば、彼は第一に情の人で、それを粗野に取扱われなかった情そのもののデリカシーと、後天的の品とがあったのだ。「此点は、私に性格の或類似からよ・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・けれども、その動機に鋭い直覚を持つ者は、切角の施物も、苦々しく味わうことは無いだろうか。 反対の或る一部は、まるで無感覚な状態に在る。ぼんやりと、耳を掠める風聞。――然し、兎も角、自分達の口腹の慾は満たされて行くのだし……必要なら、誰か・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・ 結局は、栄蔵の顔を見た瞬間に直覚した通り金の融通で、毎月十円ずつ出してくれと云った。 凡そ一年も出してもらえたらと栄蔵は云ったけれ共病気の性をよくしって居る主婦は、とうていそれだけの間になおらない事を知って居たし、沢山の子供の学費・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・そんならと云って、教育のない、信仰のある人が、直覚的に神霊の存在を信じて、その間になんの疑をも挿まないのとも違うから、自分の祭をしているのは形式だけで、内容がない。よしや、在すが如く思おうと努力していても、それは空虚な努力である。いやいや。・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・しかしその本能的な直覚においては内生の雑駁な統一の力の弱い文明人よりはるかに鋭いのである。恐らく美に対するその全存在的な感激において、当時の我々の祖先はその後のどの時代の子孫よりも優っていただろう。彼らを新しい運動に引き入れたのは、確かに芸・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・ 感受性が鋭く、内生が豊富で、象徴を解する強い直覚力を豊かに獲得しているものはさまざまな対象の生命の動きを自己の内に深く感じ得るだろう。彼らは外に現われたさまざまな現象を見るのみならず、その内部の生命に力強く没入し行く。彼らの感ずるのは・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・先生は相手の心の純不純をかなり鋭く直覚する。そうして相手の心を細かい隅々にわたって感得する。先生の心臓は活発にそれに反応するが、しかし先生はそれだけを露骨に発表することを好まなかった。先生は親切を陰でする、そうして顔を合わせた時にその親切に・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・人の世を超越して宇宙の神秘を直覚したる心霊は衆を化し群を悟らす時初めて完全である。吾人の心は安逸を貪るべきでない。真と義と愛と荘とのためにあらゆる必死の奮闘を要す。精神が「義」に猛烈なる執着をなせば犠牲の念は忽然として翼をのぶ。ニュウトンと・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫