・・・償還すべき事、作跡は馬耕して置くべき事、亜麻は貸付地積の五分の一以上作ってはならぬ事、博奕をしてはならぬ事、隣保相助けねばならぬ事、豊作にも小作料は割増しをせぬ代りどんな凶作でも割引は禁ずる事、場主に直訴がましい事をしてはならぬ事、掠奪農業・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 宗吾郎が、いよいよ直訴を決意して、雪の日に旅立つ。わが家の格子窓から、子供らが顔を出して、別れを惜しむ。ととさまえのう、と口々に泣いて父を呼ぶ。宗吾郎は、笠で自分の顔を覆うて、渡し舟に乗る。降りしきる雪は、吹雪のようである。 七つ・・・ 太宰治 「父」
・・・お前は子供だからそう簡単に考えるけれども、大人はそうは考えない。直訴はまかりまちがえば命とりじゃ。めっそうもないこと。やめろ。やめろ。その夜、太郎はふところ手してぶらっと外へ出て、そのまますたすたと御城下町へ急いだ。誰も知らなかった。 ・・・ 太宰治 「ロマネスク」
出典:青空文庫