・・・それについて誰に相談いたしましょう。決してこの土地の人には打明けたくございません。 そんならパリイには誰がいるかと云うと、あなたより外に知った方はありません。 あなたはわたくしの相談相手になって下さらないわけには参りますまい。わたく・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・そうすると、その茱萸というのがわからぬので、女主人は其処らに居る男どもに相談して見たが、誰にもわからなかった。余は再び手真似を交ぜて解剖的の説明を試みた所が、女主人は突然と、ああサンゴミか、というた。それならば内の裏にもあるから行って見ろと・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・そしてよく相談するからと云った。祖母や母に気兼ねをしているのかもしれない。五月八日 行く人が大ぶあるようだ。けれどもうちでは誰も何とも云わない。だから僕はずいぶんつらい。五月九日、三時間目に菊池先生がまた・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・彼女は、さりげなく、「俺、前に見たわ、御隠居が出して来て、これ婆やにやろうと思うがどうかと相談しなすった――あれだろう?――うん、これよ」 沢や婆は、不服気に仕舞い込んだ。「――柳田村だっけな、婆やの姪の家は――あすこまで大分有・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・それに何事も一人で考えて、一人でしたがる。相談というものをめったにしない。それで弥五兵衛も市太夫も念を押したのである。「兄いさま方が揃うておいでなさるから、お父っさんの悪口は、うかと言われますまい」これは前髪の七之丞が口から出た。女のよ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・は仲よく暮していたところが、ふと聞けば新田義興が足利から呼ばれて鎌倉へ入るとの噂があるので血気盛りの三郎は家へ引き籠もって軍の話を素聞きにしていられず、舅の民部も南朝へは心を傾けていることゆえ、難なく相談が整ってそれから二人は一途に義興の手・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・いっぺん組長さんに相談してみよまいか?」「どうなと勝手にせ!」と秋三は云って又奥庭の方へ這入って行った。「そんなことしてると、またごてごて長びくでな。」とお留は云った。「そうかてお前、実の所は組が引きとらんならんのやして、お前と・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫